私の新人時代(17)

はじめは遅い時間にお店に行くのなんて嫌だった。なぜなら、22:00にお屋敷を出てしまったら帰宅するのは23:00近くになってしまう。次の日も仕事があるのだから、秋葉原をちょっとめぐって19:00くらいに女の子と話し、いい気分のまま20:00くらいに家路につきたい。と、考えるのが、普通の人の考え方だ。

その子の一日の終わりを自分にしたい。こう考え始めたら、もはや末期だ。いつでも、自分の訪れたいときに好きなように訪れることができるのが、リフレでもカフェでも強みなのに、少しでもお屋敷に長くいたいとローズは徐々に考えるようになってしまった。

お昼過ぎに、本命以外の子と短い時間で入り。アキバをぶらぶらしてから、帰る最後の時間帯にお気に入りの子と長い時間入る。遅い時間になればなるほど、なんとなくディープな常連客が多くなってくる。ローズも若い身柄ながら、すっかり汚れてしまっていた。

----------

そんな風に遊びまくっていたから、ローズは割とお店の中ではモテたと思う。リフレのお客さんは、比較的年齢層が上の人が多かったので、やっぱり年が近いほうがメイドさんも話しやすかったのだろう。

推測になってしまうが、平均年齢は40歳前後だろうか?社会的にもそれなりの身分になって、しかしながら、結婚もいまさら相手を探すには少し疲れてしまって。お金は気にしないから週に1~2回可愛い女の子に癒されたい。と、いう人たちが多かったのだろう。

彼らは、心だけじゃなくて、体も疲れていたのだろうから、メイドリフレは、社会的貢献性の高い非常に優れたシステムだと思う。

メイドリフレは、基本的には施術中には1:1だが、施術が終わった後に、控室でお茶を飲むというサービスがある。

これは、本当の?リフレクソロジーでもあるサービスで、血行が良くなった後に、水分を取ると毒が排出なんたらかんたららしいが、ようは、リフレ後も、やりようによっては、メイドさんに粘着できるよ。と、いうメイド泣かせの?サービスだった。

もっとも、稼働率が高かったアニーでは、あまりメイドさんがお茶を引いていることはなく、すぐに次の施術に行ってしまうため、実際に話し相手になってくれるのは、店長やじいやさんなど男性のケースが多かった。

-------------

最初は女の子と話すことが目的だったが、そのうち、じいやさんや店長ともかなり仲が良くなっていった。やはり女の子との話は楽しいが、男同士の話というのも実に楽しい。

このじいやさんや店長という職業。はたから見ると楽しそうに見えるかもしれないが、話をよくよく聞いていくと、かなり孤独だったようだ。

基本的に扱うのはすべて女の子で、しかも若い、アルバイトという身分。精神もまだまだ未熟であるし、実際につらい思いをして働いているのは女の子のため、店側への不満は相当なものらしい。

人生の百戦錬磨に見えるじいやさんでも、かなり参っているときがあったし、まだ若かった店長は、何度も精神を病んでしまったことがあったようだ。

話を聞くのが好きだったため、そういう話を徐々にしてくれるようになったとき、だんだんと、閉店時間後も話し込むようになっていった。

今だから言えるが、お客さんからもらったお菓子や差し入れを分けてもらいながら、近くで買ってきたビールなどを飲みながら、一緒に閉め作業をしたりしていた。

お客さんには申し訳ないな。と、思いつつも、こんなに大量のうまい棒を誰が一体食べるのか。と、お店側の気持ちもなんだかわかるような気がした。

ここまでもまぁ、よくある話かもしれないが、ある日、話が随分と盛り上がり、終電が本当に間際の時間まで伸びてしまったときがあった。

私は、あわてて帰ろうとしたが、爺やさんは、まだ話したりなかったのか。大丈夫。と、私を引き留めた。

何が大丈夫なのかわからなかったが、まぁ、何とかなるか。と、そのまま店で話し込んだ。すると爺やさんは、上へ行きましょう。と、ローズに話を持ち掛けた。

確かに。ここはリフレ店なので、寝ようと思えば寝られるスペースが存在していた。普段はメイドさんと二人きりになる神秘的な空間に、なぜ初老の男性と冴えない若い男が深夜にその空間に侵入していく。

長いご主人様生活10年近くの中で、唯一お屋敷に宿泊した、不思議な夜の始まりであった。