私の新人時代(20)

最強レベルの合理主義。と、言われることもあるローズだが、本人は非科学的なことが意外に好きである。手相を占ってほしいから献血をするし、朝のニュース番組では血液型も星座占いもチャンネルをはしごしてチェックする。

本当に合理主義だったら、メイド喫茶などに通わないし、仕事も辞めないし、お金にならないブログも書かない。ローズの合理主義は、相手を騙すための見せかけファッション合理主義なのだ。

そんなローズは、年末年始のおみくじもお気に入りだったが、ここ数年は、ずっと大吉が引けないままだった。

子供のころは、おみくじを引くたびに大吉しか引かなかった。子供心に、神社もサービス業界だから、みんなを楽しませる工夫をしてるんだな。と、思っていた。

20歳を過ぎたくらいから、大吉とは無縁の生活が続いていた。大吉どころか、中吉すらも引けず、毎回小吉ばかりだった。

おみくじに書いてあることといえば、「今はつらくても春は必ず来る」「芽がすくすくと育つ日まで腐らず栄養を与え続けよう」みたいな内容だった。

本当にそんな日が来るのかな。就職試験に受からず一人いるころは、自分の未来なんて信じられなかったが、転職をきっかけにローズの人生は好転した。

-------------

転職をして一番変わったのは年収だ。おおよそだが、年収450万円くらいには上がっていたと思う。もちろん、民間なので業績に連動するが、教育業界は、新卒でも400~420万前後はもらえる業界だった。(立ち上がりが早い)

しかしその分勤務時間は長い。見込み残業で50時間近く含まれた給与だったし、年間の休日も110日前後と、一般の土日祝休みの企業とは、15日前後の開きがあった。就業開始が13時なので、早くても23時までは仕事が残る。遅い時には24時を回り、なんだかんだしていると、寝るのは3時4時もあり得る世界だ。

さらに、土日祝はほとんど休みを取れないし、何より有給はもちろん、夏期・年末を除いて2連休すらもほとんど取れない。プレミアムフライデーなど別次元のサービス業の世界だった。

もしも有給をマックスではないにしろ10日前後取れる企業と比較すると、約30日も年間で労働時間が変わってしまう。そこを考慮すると、決して恵まれた環境とは言えないが、コンカフェで遊び倒すには十分な給与ではあった。

------------

平日休み+給与を手に入れたローズは、メイドリフレ以外にコンカフェをめぐるパターンを手に入れつつあった。

最初に短いリフレに入り、その後秋葉原をぐるっと一周する。いわゆるメイド喫茶をめぐり、また帰る前にリフレでしめる。

平日なのでカフェはわりと空いていたはずだが、シャッツキステぴなふぉあ・キュアメイドなどを巡ったが、いまいちはまるところはなかった。

あえて通った所といえば、幻橙館とセントグレースコートだろうか?当時は、パソコンを標準装備などしていなかったし、メイド喫茶では手持無沙汰になってしまうので、あくまでリフレで話す「ネタ」として通っていた印象だ。

当時のローズのキャパシティとしては、まだまだ二股ができるほどではなかったのかもしれないし、メイド喫茶が新しい成長フェイズに入りつつあった段階だったのかもしれない。

今思えば、当時のシャッツキステは、本当の屋根裏でまだまだ質素であったし、「メイド」だけで成り立っていた環境からの脱却を様々な店が差別化として模索している時期でもあった。

また、めいどりーみんに象徴されるように、ガールズバーとスナックの境界線のグレーゾーンに商機を感じた資本主義が流入し始めた時期でもあった。

この時代のひとつの事件が、かの有名な秋葉原歩行者天国で起きた凄惨な事件である。

普通であれば、この事件をきっかけに成長が緩やかになるはずだが、失われた20年で売るものが無くなったクールな日本人の欲望は止まらない。

目に見えない引力に惹かれて、歩行者天国に人があふれかえる中起きた、悲劇の事件を、秋葉原は乗り越えて、さらに成長していくのである。

人の欲望は無限大だと思った、2009年であった。