私の新人時代~大阪編2nd~(24)

お見合い会場で広大な砂漠の中から自分に合うワンピースを見つけるよりは、「手に入るかどうかは別として」自分が好きだと思える石を眺めているほうが幸せじゃないか。と、思ったローズは、再び、コンカフェ業界という、一定以上、品質が保証されている生態系へとお帰りしていった。

お見合いに参加していてもアンダンテに毎日通うのは辞めていなかったし、萌えしゃんどんにも時間が合えばちょこちょこおかえりしていた。

そう。その当時は、アンダンテが基本的に本命で、萌えしゃんどんは、あくまで時間があるときに、漫画を読みに行くような場所だったのだ。

ところが、ある時を境に萌えしゃんどんの評価が一転する。

その評価を一転させたのが、毎年丼で行われている「忘年会」だった。

4時間くらいの参加時間で、ノンアルコール飲み放題・メイドさんの手作り?料理食べ放題で4000円か4500円くらいの参加費だったので、当時の私は高いな。と、思いながらも、てんちょ~に誘われたし、とりあえず暇だから参加しよう。程度の気持ちで参加した。(※このように他人を熱心に誘ってくれるファンがいる。と、いうのは、こういう業界において非常に幸せなことだと思う。元祖インフルエンサー

実際に参加してみると、あの狭い空間に、お客さんが40人前後入っているし、メイドさんも10人以上いる上に、歌やダンスを披露したりするので、かなりキツキツの状態だった。食べ放題といっても、プロのバイキングではないからそこでおなかを満たすことはほぼ不可能な状況だったので、これが世間一般の4500円の価値があるのか?と、言われれば微妙ではあったが、コンカフェ業界での4500円としては、破格の価値がある濃密な時間だった。

萌えしゃんどんの良いところの一つは、お店全体として一体感があり、面白いことをみんなでしよう。と、いうチャレンジ精神が強いところであった。

今となっては信じられない話だが、当時の丼は、チェキを撮っても、歌を歌っても1円もバックがもらえなかったらしい。

そして、コンカフェ業界の悪しき常識なのだが、お給料は、「開館時間」しか支払われず、たしか交通費すらも支払われていなかったらしい。と、いう話も聞いた。

こう聞くと、「なんてブラック企業なんだ」と思うかもしれないが、「だからこそ」良かったのかもしれないな。と、いう長所も、「逆になってしまった」今となっては懐かしく思う。

やはり、バックがつくと、どうしてもお金払いの良い客にサービスが行ってしまうし、逆にお金を払わない人間は、まるで無価値のように思えてしまう。

そして良質な顧客は数が限られているので、女の子同士でも、お互いの奪い合いになったり、逆に気を使い過ぎて固定され過ぎた界隈になってしまう。

これは私自身の経験でもあるが、お客さんを見た時に、まるで見えないスカウターでもついているかのように「相手の今までの使用金額」が頭に浮かんできてしまうのだ。

「今までの課金額5万か。ゴミめ。」ではないが、一度お金をもらって、その仕事が金銭で可視化されてしまうと、「じゃああの仕事はどうなの?」「この仕事は安すぎない?」と、色々な欲望が人間には生まれてしまうようだ。

4500円の参加費を取っていても、おそらくほぼ全メイド参加の状況では黒字にはならないであろう状況を見たり、学園祭のようなしょぼい感じではあるけれど、みんなで一生懸命考えたであろう忘年会の内容を見たり、そして何より、最後のブロマイド販売で、お客さんが催眠術でもかかったように、自分の推しのブロマイドを1万、2万と買っていく様子を見て、このお店は良いお店なんだな。と、直感した。

人の評価を変えるには、少しの努力やアクションでは変わらない。誰もが驚く内容を、大掛かりに派手に、やり過ぎるほどして、初めて塗り替えられるのだ。

アイドルさんが、時にワンマンや、バンド演奏や、オリジナル曲発売などのライブをやるが、あれには、「評価を変える」という視点で大きな意味を持っている。

人は、何かを自分の頭で考えて評価することはできないし、毎回見ているものを、そのたびに評価しなおすことはめったにしない。

加藤しょこらんさんは、人気者。だから、可愛い。だから歌が上手い。だから、接客も良い。

人間は、思ったより固定された評価を自分で崩すのは難しい様だ。※だからこそ、一度作ったブランドで長くご飯を食べていけるんだけど。

地道にコツコツやっていればいつか評価を得られる。と、いう言葉もまったく間違いではないが、評価を変える手っ取り早い方法は、自分ができる限界以上のことに大掛かりにチャレンジすることだ。

失敗しても良い。間違えても良い。

年を取ればとるほど、人間は新しいことに挑戦することができなくなる。その時までに自分のブランドを築けなかった人は、一生底辺のままでいるしかないのだ。

そういう意味で見ると、今のアイドル業界は、今までのブランドに乗っかっただけの、チャレンジ精神を失った老害だらけのお笑い業界やテレビ業界みたいな腐った構図になっているように見える。

かつてフロンティアスピリットをもって、今の時代を築いた老害の人たちを責めるつもりはない。それに追随して、おこぼれをもらおうとしている若手たちが情けないので、誰か新しい風を吹き込もうと考える人はいないのだろうかと、心の中ではずっと待ち続けている。

上記のような視点など一切なく、ただ単に「たのしー」「すげー」「おもしろい」と、思ったローズは、何を考えたのか、1月以降、毎日萌えしゃんどんに通おう。と、わけのわからない決心をして、その年は暮れていった。。。。