もしも女子大生がビジネス書を片手にメイド喫茶の再建に取り組んだら②

思えば平凡で受け身な人生だったな。

と、自分自身でも思う。

1992年9月16日、茨城県つくば市生まれ。

父親は公務員で、母親は専業主婦。

特にこれといった趣味もなく、

近所のゆみちゃんが通い始めたからスイミングスクールに入り、

近所のゆみちゃんが通い始めたからそろばんを習いはじめ、

近所のゆみちゃんが通い始めたから学習塾に通っていたら、

気づけばスポーツも勉強も中の上くらいになっていた。

地元で2番手の県立高校に入り、

そこでもゆみちゃんに合わせるままに過ごしていたら、

それなりの大学に現役で合格することができた。

自宅から通学することもできる距離だったが、

ゆみちゃんがひとりぐらしをすると言っていたので

そこでも真似をするように東京で一人暮らしを始めてみた。

ゆみちゃんは、都内の別の大学に通っていたが、

4月・5月のうちは、頻繁に会ってお互いの近況を報告しあっていた。

でも、6月・7月と夏が近づくにつれ、

ゆみちゃんにも新しい友達ができたのか、

マコとゆみちゃんが会う機会は、急速に減っていき、

秋が深まる季節には、電話やメールでの連絡もほとんどなくなっていた。

今までゆみちゃんにべったりだったマコにとって、

新しい大学で友人を作ることは、始めから無理な話だったのかもしれない。

4月の新歓コンパにいくつか参加して、

慣れないお酒に頑張ってチャレンジしたりもしてみた。

初めは先輩や同期の学生たちも気を使って話しかけてくれたが、

少し時間が経ち始めると、壁際でひとりぼっちになっていることが、

まるで決まりごとのようになっていた。

もちろん誰も友達がいないわけではない。

それなりに連絡先の交換もしていたし、

学内でも声をかけられることは多かった。

しかしそれはマコを友達として扱ってくれるというよりは、

単位を取るのに便利な人物と思われている面が強かった。

サークルに入ることは難しいと感じたマコは、

せめて勉強だけは頑張ろうと思い、

きちんとすべての授業に出て

ノートを取っていたことが災いしたのだ。

学園祭前の忙しい時期や、テスト前の時期になると、

代返の依頼やノートをコピーさせてほしいといった連絡で

マコの携帯は大忙しだった。

もちろん彼らにとってマコは、

それ以上でもそれ以下の関係にはなりえずに、

マコは、初めて人生において孤独を感じていた。

「自分の意思で生きるのって思ったより難しい」

そんな中、初めて自分の意志で応募して、

ある程度うまく行きかけていたバイト先のピンチを聞いて、

マコは、また目の前が暗闇に覆われるような気持ちになった。

「やっぱり私なんか何をやってもダメなのかな」

どこの国の車かはわからないけれども、

とにかく高そうな雰囲気の車に乗り込み去っていく

オーナーを見ながら、マコは、ただただ溜息をつく以外できなかった。

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「は?なんなの、あいつ。意味わからないんですけど。」

と、つぶやいたのはエリカ先輩だった。

エリカさんは、スタイル抜群のモデル体型で、、

長いブロンドヘアが何の違和感もなく似合う

まさに「美人」というのがぴったりのメイドさんだ。

お給仕にはあまり積極的ではなく、

カウンターの中でも腕を組み、仁王立ちをしながら、

一言二言話すだけであり、生ビールの注文が入っても、

半分以上が泡のビールを平然とお客さんにつきだしてしまう。

普通ならお客さんも怒るところだが、

あまりの美人さに接客態度は気にされない様子だった。

むしろ「今日もエリカ様は調子良いぞ。」と、

もてはやされていて、本人もその対応がまんざらでもない様子だった。

「もー。エリカちゃんは、すぐ文句ばかり言うー」

と、すかさずフォローしたのはエミ先輩だった。

いつも元気で明るく笑顔。

小柄でポニーテールをふりふり揺らしながら

「しゅたたたた」「ちゃきーん」と、

自分で自分の行動に擬音をつけながらお給仕をしている。

慌ててうっかりミスも多くしてしまうが、

ベルが鳴ったら誰よりも早く駆けつける一生懸命さで

多くのお客さんから可愛がられているメイドさんだ。

彼女の周りには、いつも笑い声が絶えない。

「まぁ、クソみたいな客の相手もそろそろ潮時かもね。」

と、ぼそぼそつぶやいたのはスモモ先輩だ。

少し丸型のほんわかした体型に

たれ目とメガネが癒し系のオーラを醸し出している。

おっとりとしたしゃべり口ながら、

最新時事の話題からスポーツ、アニメ、音楽と

幅広い知識を持っているのでおしゃべり好きな

お客さんからは絶対の信頼を得ているメイドさんである。

お給仕中もだいたいは愛想よくふるまっているのだが、

ストレスが溜まるとつい本音が出てしまうらしく、

「あの~念のための確認なんですが、

 ご主人様って・・・もしかして馬鹿ですか?」

と、毒舌を満面の笑みで発言してしまうギャップも

彼女の魅力のひとつとなっているようだ。

「・・・・・・・・・・・・」

と、言葉にすることもできないのは、

メイド長のリコ先輩だ。

正確には「メイド長」という役職は無いのだが、

彼女の凛とした気品のある振る舞いとお客さんの人気度合いから、

自然とお店全体を仕切るリーダー的存在になってしまっている。

「アキバのしょこたん」と形容されるほど、

愛らしいルックスの彼女は、名の知れたコスプレイヤーであり、

コスプレイベントの際のクオリティは目を見張るものがある。

お客さんには公表はしていないようだが、

実は東京芸大出身であり、彼女の本気の作品を見ると、

段違いのレベルの高さをうかがわせる。

オムライスや落書き帳にアニメのキャラを描くと

必ず「上手いね」と言われているが、そんなレベルじゃないのに。

と、マコは、内心いつも思っていた。

リコ先輩は、純粋にメイドという仕事が好きで、

「楽しみたい」という気持ちで働いていたはずだが、、

いつのまにか周りから期待を寄せられることによって、

かなりのプレッシャーを受けているようだった。

彼女の真面目な責任感がそうさせるのか、

体調不良で欠勤になってしまうこともしばしばあった。

本当は色々やりたいこともあるみたいだが、

女性特有の「平等主義」の関係を気にして、

できるだけ自分を抑えているようにマコはいつも感じていた。

今までですらその重圧感に耐えられていなかったリコさんが、

当然今回のような急転直下の状況に対応できるはずもなく、

「みなさん・・・とりあえず今日は解散して後日ゆっくり話しましょう。」

と、顔面蒼白のまま小声でつぶやくのが精いっぱいだった。

「もうあきらめる以外ないのかな?」

その日はそれぞれの思いを抱えたまま、

みんな無言で散り散りに帰路についた。