私の履歴書23(54)

高校2年生は、非常に充実した時期だった。集団の中での一人ではなく、少人数制クラスの中で確かに自分のアイデンティティを感じられるようになっていたし、単純に勉強が楽しかった。

特進クラスは、先生たちも独特だった。物理の数式の美しさをひたすら語る先生もいれば、アメリカと比べて日本人の高校生の精神の甘さをひたすら非難する英語の先生。すでに年齢を重ねすぎていて、いつも肝臓が痛いと言っていたら、本当に入院してしまったけど、どんな数学の難問も回答してくれるカンゾー先生。このクラスの授業の為に引き抜かれた先生たちだけあって、授業の本質も、それ以外の雑学も授業はずっと面白かった。

2年生は勉強しかしなかったが、その本質が楽しかったのは恵まれていると思う。仕事が人生の1/3を占めているように、学生にとっては、勉強も人生の1/3を占めているからだ。多様性を知るために色々な生徒と仲良くするのも素晴らしいが、自分に合ったレベルの仲間たちと切磋琢磨する環境も、また素晴らしいものだと思う。

私立の進学コース特有で、通常授業のほかに補修は必修だし、長期休暇も講習があるし、家庭科や保健体育の授業は、年に1~2回しかなかったし、地理の授業をしているのに成績が世界史でついてるし、赤点が25点以下なのに、理系の科目の平均点が20点前後だし、授業のペースが超ハイペースで、2年までには3年生の内容がすべて終わっているという生活で、とにかく勉強が生活の中心だったけど、特に苦にはならなかった。

勉強にすっかりはまった?ローズは、自分自身の成績を上げるために、早起きの生活習慣をつけるとともに、お小遣いについても偏差値との連動性にしたら、モチベーションあがるんじゃね?と、ある日思いついた。

当時は、小学校3年生からの持ち上がり制で、お小遣いはおおよそ5000円近くまで達していたが、いまいち自分の成績が芳しくないのに、お小遣いをもらっていることが、自我が芽生え始めた当時のローズには許せなかったのだ。

そこで、ローズは父親に、模試の偏差値55を基準として、偏差値が1上がるごとに1000円。偏差値60~65については、1ごとに2000円。65以上については、1ごとに3000円欲しいと交渉をした。

その頃には成績が悪くても、模試の偏差値は、最低でも60はあったし、調子が悪くなければ、65前後はあった。

模試はだいたい3か月に1回は受けるので、15000円=偏差値65を取れれば、今の状況をキープできる。もし万が一偏差値70を獲得すれば3万円だ。などと考え、自分のモチベーションに繋げようと思っていた。

しかしこれが、間違いの始まりであるとともに、自分のモチベーションのひとつに狙い通りに繋がった。

当然といえば当然なのだが、模試の偏差値は、学年が進むごとに相対的に下がる。また、特進クラスは、通常の模試ではなく、ハイレベル模試を受験させられるので、偏差値65だと、東大クラスのレベルになってしまうのだ。

結果、月のお小遣いに換算すると、一時期は1000円くらいまで下がってしまった。実際、登校・下校の時に買い食いをすることはないし、勉強以外にゲームをすることもなかったが、毎週のジャンプを購入することもままならなくなってしまった。

確か、ちょうどジョジョが連載雑誌の移転をしたのに伴って、ジャンプも立ち読みに変えた記憶がある。だから実は、ナルト・ワンピースの初期は、あまり記憶にないのだ。600万部からの販売数降下は、ローズも主犯のひとりであった。

中学生ならまだしも、高校生には、これは正直きついな。と、思いながらも、反面、楽しんでいる自分もいた。その後、努力をしてたまに5000円をゲットすることができた時には、お金のありがたみをものすごく感じることができたのだ。ささやかなお祝いとして、近所のリプトンの安い紅茶パックとまずい肉まんとポテトチップを自分で購入した記憶があるが、あれが何より美味しいと感じるのも、不思議なものである。

ローズは、たぶん「逆境」が好きなのだ。勝負をすることが好きではなく、勝つことが好きな人が、この世の中の勝者ではあるのだが、苦しい中で、制限された環境で、勝負をすることに魅力を感じた人生を送ることになるのは、まだだいぶ先の話であった・・・。