私の履歴書48(79)

アイドル系の話を聞いて、いつも不思議に思うことがある。アイドルたちは、ステージ上で、「ファンのために武道館に行きます。」と、夢を語り、ファンたちは、「推しのために武道館に立たせます」と、応援する。しかし、それって、お互いがお互いの夢に依存しているだけであって、本質の欲求が空っぽではないだろうか?

アイドルは、実は武道館に立ちたいと思ってないかもしれないけど、ファンが喜ぶから武道館を目指す。ファンも、別に武道館に立ってほしいわけじゃないけど、アイドルが喜ぶと思って応援する。じゃあ、本当は、彼女たちが、彼らが望むものとは何なのだろうか?そして、なぜお互い「時間」と「お金」という多大なコストを払ってまで、「他人のために」そんな苦難に立ち向かうのだろうか?

アイドルにまつわるワードとしてもう一つ不思議なフレーズがある。「誰かにあこがれる存在になりたい」

これもよく考えれば不思議な話である。そもそもの欲求として、自分がやりたいことがあり、「それを成し遂げること」が、本質の希望のはずである。そして、その副産物として、夢を成し遂げた自分にあこがれてもらうならいいのだが、その肝心な「達成したい事」が空虚なのである。本質を飛ばして結果だけを求める。自分の評価を他者を通じてしか行えない、相互依存というやつだろうか?とことん自分不在の世の中だ。

と、偉そうなことを言うローズもまた、22歳の時には、何も世間を知らない凡人だった。当時のローズの希望就職先は、「公務員」一番の希望は、東京都23区の職員で、それがダメなら、国家公務員2種か、地方の市役所の職員でも構わなかった。

「人の為になりたい」と、いう、これまた具体性の無いありがちな志望動機で、私が面接官の立場だったら100%落とすよな。と、いう程度の薄い動機だった。

別に「人の為になりたい」と、いう気持ちは決して嘘ではないのだが、「人のため=公務員」という発想しか思い浮かばない考えが浅はかだ。

当時は不況の影響もあって、公務員がちょうど人気を博してきた時代でもあった。地方ならいざ知らず、特別区政令指定都市の公務員は、早慶レベルが平均で、民間に受からない落ちこぼれが行く時代とは状況がすっかり変わっていた。

先に結論を述べると、ローズはその年には公務員になれなかった。知っている人ならわかると思うが、公務員試験は、学科の試験がめちゃくちゃ難しい。おまけに工学部の勉強とはまったく関係ない政治学などの専門分野が出るので、むしろなぜ受けるのか?受かる気があるのか?と、いうのが客観的な印象だ。傾向として、今まで積み上げたものを、すべて破壊して新しいことに挑戦することに快感を感じるローズの奇行であった。

公務員が本命だったが、それじゃあ民間はまったく受けなかったのか?と、いうと決してそんなことはなかった。

みんなが大好き、ソフトオンデマンドと、フジテレビだけ受けてみた。企業分析も自己分析もできていないローズは、当然どちらも落ちた。

そもそもソフトオンデマンドは、エントリーをして企業説明会に参加をしたが、一次面接の日付をメールで見落としていて、面接に参加すらできなかった。

フジテレビは、もともとテレビ業界志望だったのでわりと本気で受けた。エントリーシートで落とされることも多い中、3次試験まで進めたのは自分でもなかなかだと思う。

ただ、そこから先は、よほどのマスコミ対策を行っていなければ受かるわけがないのだが、1%でも受かるかもしれない。と、いう夢を見ていたローズは年数を経ても高校受験・大学受験と変わっていなかった。

あっさりとしているが、以上がローズの就職活動のすべて。である。新卒至上主義、世界最高の新卒カードをあっさりと捨てたのだった。

今思えばあほだなー。と、思う。単純に就職活動をしなかったのは、みんなと同じ行動をするのが嫌だった。と、いう個人の希望と、どうせ民間に入っても大したことはできないし、自分にはなじめない。と、自分勝手なイメージだった。

大学院に行くという手もあったが、わざわざお金を払ってまで、さらに実践から遠い内容を2年間も続けるのは、楽しいというイメージがわかなかった。

一応大学の推薦枠で、docomoなりyahooなりがあるという話もあったが、無知すぎる私にとっては、ドコモなんてつまらなそうな会社行くなら、絶対就職浪人するわ。と、考え、本当に就職浪人をした。

なんのために、大学に入学したのかのだろうか?人より多い5年間も大学に通っても、ローズには、「世の中」というものがまだ理解できていなかった。「空気」が読めない人間だった。

まぁ、今思い返せば、私の判断はあながち間違いではなかったのかな。と、思う。たぶん、どこの企業に入っても組織になじめなかっただろうし、続かなかったとは思う。

ただ、漫画が好きだったのだから、もっと出版系の会社を狙ってもよかったし、ゲームが好きだったのだから、ゲーム会社をいくつか狙ってもよかったかもしれない。

お笑いが好きだから吉本などを狙ってもよかったし、テレビに可能性を感じたのならば、ADでもなんでもやって東京に残ればよかったと思う。

とにかく望めばなんでも叶うせっかくのチャンスを自らの手で捨ててしまったローズは、あこがれだった東京での一人暮らしに別れを告げ、実家の茨城へと戻っていった。

すごろく的に言えば、「振り出しに戻る」だろうか?ローズが大人になる日はいつになるのだろうか?