私の新人時代(7)

2008年の1月2日。初めて本格的に足を踏み入れた訪れた秋葉原は、お正月の時期だから、ありえないほどの人ごみでごった返していた。

今となっては、歩きなれた街ではあるが、当時の私は昭和通り口も、電気街口も見分けがさっぱりつかなかった。

そもそも、「メイド喫茶」というアバウトな概念しかなかったので、特別に「このお店に行こう」とか事前に調べたりはしなかったので、どこになんの店があるのかも把握していなかった。適当にふらふら歩けば、メイド喫茶に当たるだろう。程度の気持ちで訪れたのだ。

しかし、当然ながらメイド喫茶は一切見つからなかった。この業界に詳しい人ならわかるだろうが、路面店は家賃が高いので、基本的にアキバのメイド喫茶は、ビルの2階以上に存在することが多い。しかも、大きな看板を出しているわけでもなく、わりとひっそりとした雑居ビルのケースも多い。

当時は、まだめいどりーみんもなかったので、客引きのメイドなんていなかったころじゃないだろうか?だから、よほどアキバに精通した人間じゃないと、メイド喫茶にたどり着くのは困難だった。(※だからこそ、働く女の子も、訪れるご主人様も精鋭?だったのだけど・・・。わかりやすいことがすなわち正解というわけでもないのだ)

そんな素人が、お店をどうやって探すかというと、ずばり「秋葉原マップ」みたいなガイドマップである。

どこで手に入れたか忘れたが、とにかくどこかで手に入れたマップを元に色々なお店を歩き回った。何とか見つけたものの、あまりにも大混雑で入れなさそうなお店から、そもそもマップには乗っているけど、永遠に見つからないお店。そして、なんとか見つけても、お正月なのでお休みしてるお店などで、結局この日は、メイド喫茶には入れなかった。。。

とりあえず、どこかのお土産屋さんで、ツンデレカレー?みたいなありがちなおみやげ物は入手したし、もう3時間近くアキバ歩き回ってるし、帰ろうかなー。と、思ったときに、そのお店は目に飛び込んできた。

昭和通り口の、メインの電気街やメイド喫茶街とは真逆の方向にある、annyという名前の路面店ぴなふぉあ1号店の隣にある、小さな小さなメイドリフレ店だった。

本当は、メイド喫茶で萌え萌えきゅん。を、イメージしていたが、せっかくアキバまで来たのに、メイドと接触しないで帰るのもバカバカしい。と、いうことで私は勇気をもって飛び込んだ。

飛び込んでみると、小さな待合室みたいなところに、爺やさんと呼ばれる、60過ぎの白髪の紳士が待っていた。白いワイシャツに蝶ネクタイなんてしてしまっていて、まるで漫画のキャラのように素敵な老紳士だった。枯れ専の女子には大人気だろう。

「ご予約はされていますか?」

と、爺やさんは尋ねた。

「特にしていません。」

と、緊張した声でローズは答えた。

「メニューはお決まりですか?」

「いや、ええと・・・」

店内のメニューを見てみると、想像以上の値段にびっくりした。40分コースで4200円。60分コースだと7000円近くの金額だ。

ちょっとネタのつもりで来たのに、さすがに4000円は、大きいな・・・。

そもそも、普通のマッサージもしたことないのに、メイドさんにマッサージをしてもらうなんて恥ずかしすぎる・・・。

今からでは考えられないうぶな反応をするローズの目に、ちょうど良い情報が飛び込んできた。

ハンドリフレ10分:1000円

これだ!!

ローズは、直感的にひらめいた。

これなら靴下を脱いで足裏を見せるという変態的な行為をしなくてすむし、金額的にもだいぶ安く済ませられる。1000円はあまりにもしょぼすぎるから、20分頼めば、まぁ妥当なアキバ経験になるだろう。

「ハンドリフレ、20分でっ!」

ローズは、初めてのくせに、意気揚々と答えていた。

「今からだと20:10からのご案内になりますが・・・」

「はいっ。時間には余裕があるので、待ちます。」

ローズがリフレを受けるまでに、15分という実に微妙な待ち時間が生じていた。

現在、お店には、爺やさんと呼ばれる男性一人しかいない。annyは、少し変わったお店で、1階が待ち受けスペースで、2階・3階がリフレスペースとなっていた。

当然ながら今まで風俗とかに行ったこともなく、マッサージなどの経験すらも無いローズは、この待ち時間は、最高に緊張するとともに、最高のワクワクする時間でもあった。

社会人になって約1年。こんなところにひとりで来るなんて、自分も大人になったもんだ。と、気分を高揚させながら、自分の順番をひたすら待っていた。