私の新人時代(8)

あれは、夢だったのかもしれない。あの日からしばらくたった後も、ローズの頭の中はメイドさんのことでいっぱいだった。

1月4日の仕事始めの新年会はわりと大成功だった。各々が実家から持ち寄ったお土産はやはり豪華で華々しかったし、ローズが秋葉原で買って帰ったツンデレカレーやよくわからないアキバ名物も、それなりに一般社会の日常を繰り返している大人たちにウケた。

一言でいえばミッションコンプリートだ。ここまでやれば十分で、メイド関係ともお別れだ。これ以上萌え萌えきゅんも、おかえりなさいませご主人様も、ローズには必要なくなる予定だった。そう、予定だったはずなのに・・・。

夢の世界へお連れします。なんて、キャッチコピーのコンカフェがあった気がするが、それはまさにその通りだな。と、当時のローズは、かみしめていた。

人間における「相対的な環境」と、いうのは本当に面白いものである。当時のローズは、端的に言えば女性に飢えていた。

飢えている。と、いう表現をすると正直語弊しかないのだが、とにかく毎日の職場の中で若い女性と接する機会が圧倒的に少なかった。

所内で見かける女性は、大変失礼ながら、おばさんばかりで、30代の女性を見かけることもごくごく稀だった。こういう状況に陥ると、人間のハードルは、低くなるもので、もはや街を歩いている女子高生を見かけると、「すげーーーー。女子高生だーーー。10代ーーーー。」と、ネタじゃなく、ガチで思ってしまうレベルになるのだ。

可愛い・可愛くない。と、いう判断は、もはやない。30歳以下かどうか、女性かどうかで、市場価値がMAX近くまで跳ね上がってしまう。

いや、よく考えてると、女性という性別だけが問題ではないかもしれない。もはや、女性・男性に問わず、20代の人間と接することが少なすぎるという点で、ローズは不満を抱えていたのだろう。

世代が違えば、経験も違うし、価値観も違う。初めは、年上の人たちの昔話を物珍しく聞くことができたとしても、やはり自分と同じ時代を体験し、価値観を作り上げてきた人たちと話せないのは、なかなかしんどい部分もあった。

そんな状況の青年が、世間一般の女性より、若くて、可愛くて、話が上手なメイドさんと触れ合ったらどうなるか?答えは言うまでもないだろう。

あと1回。あと1回だけ。と、いう自分の気持ちとは裏腹に、ローズは毎週秋葉原へと出かけるようになっていった。。。