私の新人時代~大阪編~(21)
俺は今日告白する。と、意気込んでリフレの部屋へ消えていったてんちょ~は、1時間ちょっとの時を経て、再びポコのお店にあんちゃんと戻ってきた。
普通の人から見ると、いつも通りのてんちょ~なのだろうが、もしもチャレンジに成功をしていたら、もっと明るい表情をしているはずなので、お店の中では、特にその話題に触れないまま、いつもどおり何気ない時間を二人で過ごしていた。
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ポコスターのオープン時間は、11:00~22:00まで。22:00を過ぎると、いつの日か私たちは毎日のように、近鉄日本橋駅近くのUCCの喫茶店に駆け込んでいた。
最初はひとりで通うコンカフェ業界も、次第に仲間や友人が見つかりだすと、お店の後のアフターが楽しみになる。
お店に通うことが目的で、その後の時間はほんのおまけ程度だったはずが、いつしかお店を早く抜け出して、違うお店で仲間と騒ぐ方が楽しみになったりもするのだから不思議なものだ。
こういう感覚は、リフレでは絶対に味わえない経験でもある。これこそカフェ界隈の本領だろう。
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いつもは俺の嫁(あんちゃん)がいかに可愛いかで盛り上がり、実際に脈があるのか、無いのかを、ほんの些細な出来事から推測しあう、はたから見るとアホみたいな時間を楽しんでいたが、この日ばかりは、いつもみたいにふざけた感じにはならなかった。
結論から言うと、(てんちょ~的には)フラれた。と、いうことになったらしい。今まで連戦連勝の無敗記録を伸ばしてきた俺に、あんちゃんは、初めて土をつけた女だよ。と、わけのわからないことを言っていたが、相当ショックを受けているように見受けられた。
本音を言えば、今回の出来事は、メイド喫茶に通う上で、すごくワクワクドキドキしたイベントだった。
それは、この界隈に限らず、自分の知り合いが告白をする。と、いう経験自体、友人などいなかったローズには新鮮な体験だったし、ましてや、恋愛禁止が高々と歌われているコンカフェ界隈においては、いったいどういう結末になるのだろうと、小説より奇な事実を楽しみにしていた。
個人的には、あんちゃんのことも好きだったし、てんちょ~のことも好きだったので、付き合ったらいいのにな。と、ひそかに思っていたのだが、やはり現実はそんなに甘くはないらしい。
そうすると、少し意地悪だが、あんちゃんは、いったいどのようにして告白を断るのだろう?と、いう点に興味がわいた。
形式上は、お客様という立場なのであまり無下にもできないし、やり過ぎたら、ポコに二度とおかえりしないかもしれない。
かと言って、彼氏がいようがいなかろうが、中途半端に色恋営業をしてしまっては、後々に面倒な爆弾となって爆発をしてしまう。
私が逆の立場であれば、どういう対応をしたらいいのか、見当もつかなかった。みなさんだったらこの状況ならどうするのだろうか?
ちなみにあんちゃんがどのように答えたかというと、「答えない」を選択したようだ。
まずは、てんちょ~の真摯な気持ちに感謝を述べ、嬉しいという気持ちは伝えた上で、立場上付き合うことはできないから、私にはどうしたらいいかわからない。と、ひたすら涙を流していたようだ。
まるでハンターハンターのクラピカかよ。と、思うかもしれないが、今考えても、素晴らしい切り返しだな。と、思う。
めいどるちぇ時代から人気のメイドさんだった、あんちゃんは、おそらく何度も同じような修羅場?を、乗り越えてきたのだろう。
ちなみに、フラれたらもう二度と通わないと言っていたてんちょ~は、少しペースは落ちたものの、その後もずるずるとポコに通っていた。(今も通っている)
最初はたぶん本当に二度と通わないつもりだったのだろうが、そこを覆させたのは、あん様とお店の魅力なのだろう。
本来は、すっきりと足を洗うのが正しいのかもしれないが、それでも、何食わぬ顔してお店にしれっと通えるのがこの業界の魅力であり、正しい遊び方だと思う。
結局この世界は、惚れたほうが負けなのだ。そして、惚れられる相手がいることこそ、幸せなのだ。
私自身は、何一つ行動を起こしていないが、てんちょ~というひとつ上の世代の男の生き様を見て、少し大人になった気分のローズなのであった。