私の新人時代~大阪編2nd~(4)

人間がコツコツ努力をしないのは、努力した分のリターンを得られる感覚が、投資した時間軸と正比例しないからだと個人的には思っている。

文章で表現することが難しいが、例えば10時間勉強したときに、テストの点数が10点分伸びるのであれば、みんな喜んで10時間勉強をするだろう。

しかし、これは勉強に限らないが、10時間勉強をしても、実際にはテストの点数は1点も伸びない。

仕方がないので、20時間勉強をしてみる。すると、またしても1点も伸びない。

さらに仕方がないので、30時間勉強をしてみると、ある日急に30点伸びる日が訪れる。いわゆる「○○の壁」と呼ばれるものだ。スポーツでも勉強でも趣味でも、どんな分野でも「成功体験」をした人は、感覚的に「世の中」がそんな風に構築されていることを理解できているが、成功体験を積んだことが無い人は、目の前の壁が超えられないと思い込み、努力を継続することができないのだ。

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予備校運営の仕事も、この「壁」をブレイクするためには、やる時には、とことん集中してやり遂げなくてはいけない。いわゆる「突き抜ける」という体験だ。

予備校に限らないが、店舗運営業というのは、運営をしているとある日必ず「物理的な限界」に悩まされることになる。

予備校であれば、教室が足りない。コンカフェであれば、座席が足りない。

調子が上向いてきた店舗は、オーナーや社長に設備の改善や増築を懇願するが、経営者というものは、なかなかこういうお願いごとには首を縦には振らないものである。

そんなときの彼らの殺し文句は、「今は調子いいけど、来年も同じ分だけ生徒(お客さん)を集められるの?」だ。

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経営的な目線で見ると、一度増やしてしまった座席数は、来年に調整をすることは不可能である。固定費の増加を抑えたい経営者は、少しくらいの限界状況なら、現場の工夫で乗り切ってくれ。と、いうのが彼らの本音なのだ。

なんばの校舎は300人前後で想定されていたとすると、ローズの1年目は330人まで増えていた。

実はその当時ですら限界なのに、現場の声をどれだけあげても、「工夫でなんとかしてくれ」で済まされていたことを、個人的には最高に腹ただしく思っていた。

どうして会社の利益になるために売上を上げたのに、その利益を自分たちに還元してくれないのか…。

消防法に引っかかるような倉庫の使い方をし、教室に無理やり座席数を増加させ、勉強できる環境じゃない。と、クレームをもらい続けるくらいなら、入会者を制限して、自分たちがやりやすい環境で仕事をした方がよっぽど幸せじゃないか。

しかし、そうなってしまっては終わりである。会社側がそれでも応じ無いようなバカな会社であれば見切りをつけてもいいだろうが、そうでなければ、正攻法で突破すればいい。その年も生徒を増やした難波校は、見事1階分増築をすることに成功した。

今まで苦しんでいた諸々の課題が、新しく得た武器によって解決していく感覚は何よりも爽快だった。

RPGと同じように、今まで苦しんでいた敵を、苦労して経験値を積み、お金を貯め、より強力な武器を得て、軽くひねりつぶし、新しい大きな課題にステップアップをしていく。と、いう感覚を知った人間は、一生の財産になるだろう。

こういう経験を若いうちにできたのは幸運だったと思う。こうして2年目の繁忙期もひとまず終わりを告げた。