私の新人時代~大阪編2nd~(12)

いつも身軽でいたかった。自分が寝たいときに寝たいし、行きたい場所に行きたい。食べたいものがあったら食べたいだけ好きなものでおなかいっぱいにしたい。

そういう意味では便利な場所のメイド喫茶。人と話したいときに好きな時間に好きな人と話したいだけ話し、その代わりにお金を支払う。お金を払って時間を買っているわけだから、周りを気にすることなく、自分が帰りたいときだけにおかえりし、やりたいことを好きなようにすればいいのだけど、いつしかそれが、できなくなったときに、気分転換で違うお店に行ってみたくなる。

そう、いわゆるご主人様2年目病的な成長を、ローズも順調に続けていた。

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メイド喫茶に長く通っていると、必ず一度は頭に浮かぶ「毎日楽しいけど、本当に俺はこんな毎日で良いのだろうか?」と、いう疑問。

客観的に見れば「楽しい」のだから、それは悩む必要もなく楽しめるだけ楽しめばいいはずなのに、「世間の常識」というものが、それを邪魔をする。

「30も近いのに結婚どころか彼女もいなくていいのか?」

「楽しい」のだから別に彼女がいなくても良いし、別に結婚をする必要もない。と、今となってははっきりとわかる。

極端なことを言えば私たちは「結婚」をするから「幸せ」なわけじゃない。「幸せ」を感じるから「結婚」をするのだ。

しかし、まだまだ2010年という時代は、30近くになったら結婚をし、家を買い、一国一城の主となる。と、いうモデルケース(まやかしの幸せ)が人々の意識に刷り込まれている時代だった。

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また、メイド喫茶が趣味。と、いうものが、やはり「世間一般」という常識に照らし合わせると、少し不安に思える時があった。

「別に、俺、メイド以外の趣味あるし。」

「別に、メイド喫茶以外にも行く場所あるし。」

「そうじゃなかったら」ダメ。と、誰かに言われたわけではないが、そうあるべき。と、思い込み、メイド喫茶に近い、一般のBARやちょっとおしゃれな飲食店などに出入りし始めるのが、ご主人様2年目病の特徴だと思う。

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そういう意味では、アンダンテは、ちょうど良いお店だった。アンダンテは、メイドだけではなく、執事も同程度の割合で存在し、極端な日は、執事だけで営業をしている日あった。

また、地下のカウンターでは、ウイスキー各種を取り揃えており、「なんだか大人」な気分になれた。

同じようなお店としては、大阪はミルクカフェという有名なお店があるが、なぜだかそこには惹かれなかった。

ミルクカフェに通ってる俺、かっこいいだろう?と、いう雰囲気が気に入らなかったのだろうか?それとも、結局女の子目当てと思われるのが嫌だったのだろうか?疲れてしまったのだろうか?

「別に、俺、女の子と話したいわけじゃないし」

「お金だって、女の子だけじゃなく、他のものにも使えるし」

と、いう、今から見ればただの子供ような欲求をちょうど満たしてくれるのがアンダンテだったのかもしれない。

ポコにはそれなりに通ってはいたが、2010年の夏くらいから、徐々にアンダンテに通う回数が多くなっていくのを自分でも自覚していたローズであった…。