私の新人時代~大阪編2nd~(17)

アンダンテにちょこちょこ通っていたけれど、ポコもあんちゃんの卒業前までは、基本的に毎日通うようにはしていた。

今までの疲労が蓄積したのか、それとも精神的につらくなってしまったのかわからないが、あんちゃんはとにかく体調が悪そうで、昔のように毎日シフトに入ることはなくなった。

あんちゃんのシフトが減った分については、周りのみんながカバーをしてくれて、特に次の店長になるしゅうちゃんが一生懸命お店を盛り上げてくれていた。

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しゅうちゃんは、見た目がまず可愛いのだが、それにもまして明るく、笑顔で、トークが上手く、ポコスターレベルワンというお店にとっては、まさにしゅうちゃん以外いないのではないか?と、思えるほどのぴったりの人材だった。

あんちゃんが卒業するとはいえ、ポコについては、まだまだローズの知名度の神通力はすさまじく、しゅうちゃんが店長になっても通い続けてもよかったのだが、当時の私としては、どうしてもしゅうちゃんの方針で許せないところがあった。

それは、あまりにも天然で無邪気すぎて、メイド喫茶の「経営」という面で見ると、顧客側から見ると「不公平」が生じてしまうところだ。

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メイド喫茶」をどういう場所と捉えるかは人次第ではあるが、「ビジネス」としてお客さんからお金をもらって運営をしている以上、お金を払った人が「対価」を得るのは当然の理と言えるだろう。

しかしながら、当然メイドさん側も人なので、お気に入りのお客さんには優しくするし、長く話すのも当然だと思う。

しゅうちゃんは、そこがあまりにピュアすぎた。

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もともと当時のポコは、お金に比例して対価を得られるようなビジネス的な側面は少なく、人間と人間の付き合いによって、関係を発展させていくような世の中の「真っ当」から少し外れた人たちの社交場のような場所であった。

ただ、やはりポコが身売りをして中野さんのグループになってからは、色々なルールが厳格化され、少しずつ資本主義的な、ビジネス的なお店の雰囲気もできてきた。

しかし、よくよく考えてみれば、どうしてメイド喫茶は、メイドさんとお客さんが連絡先を交換してはいけないんだろう?特定のお客さんを優遇してはいけないんだろう?お互いが気に入っているならば別に問題なんてないじゃないか?メイドにだって、彼氏がいたっていいじゃないか。

少しずつ時代は変わり始めているが、当時のしゅうちゃんからすると、いまいち変なルールで縛られた「コンカフェ」というのが納得いかないようだった。

今ではかなり丸くなったが、彼女も当時は20歳前後でイケイケの時期であり、日本橋近くでお客さんといるのを見られたことに文句を言われると、「うるせー。だったらお前が店に来るな」などと言っているような状況だった。

なかなかロックな店長である。

当時の私も今の私も、しゅうちゃんの意見は確かに同意ができるが、メイド喫茶は、「社会主義的平和共同体」であり、強い人が当然の対価を得る場所ではなく、弱い人の基準に合わせた、優しい人で作られた優しい国。と、考える私の考えからすると、少し方針が合わなかった。

自分でも言うのもなんだが、私はしゅうちゃんとかなり仲が良くて、おそらく通っていたら相当な優遇をされていたと思うが、それでも、そうじゃない。「持っていない」と、いうところに居たかった私は、あんちゃんの卒業を見届けてからてんちょ~とそっとポコを離れていった。

今思うと、「個人的な思想」とはいえ、何も言わずに去ってしまったことを、大変申し訳ないことをしてしまったな。と、思う。

新しい店長になって、今までの常連がいなくなるほど、自分に非があると、悩ませ、傷つけることはないだろう。

推すのは簡単だけど、推しを辞めるというのは、本当に難しい。どれだけお金が介在している「便利な」関係と言えども、目の前で相手をしているのは、2次元のコンピュータではなく、心を持った人間なのだ。

この業界、安易な気持ちで推したり、好きだと言ってはいけないのである。