私の新人時代~大阪編2nd~(30)

これからいなくなってしまうから、特別扱いをされるというのが嫌で、転勤のことはいつもギリギリまで言わないのがローズのやり方だった。

今と違って、私はメイド喫茶内で目立つことを極力嫌っていたので、なるべく隅で背景のようにしていたかったからだ。

私自身が話す時間を、他のお客さんに振り分けてもらい、その場のお客さんが楽しんでくれることが私の楽しみだった。

-----------

だからといって、本当におとなしくしているだけで満足ができているかというと、そうではないのが自分の厄介なところだった。

現場でほとんど話をしない分、ブログに自分の考えていることを異常なまでに書き綴っているし、それだけに飽き足らず、直接手紙を書いてメイドさんに渡すという愚行を行っていた。

今考えなおせば、普段ほとんど話もしない人間が、いきなりあんな長文を送り付けたら、ほとんどの人がびっくりするだろうし、怖いと思うのだが、そのギャップ?こそが、サプライズであり、本人が喜ぶだろうと思っていたのだから、とんだ勘違いである。

しかもそのリアクションを出す場を与えない。と、いう完全な安全地帯からの狙撃で、秘境極まりない行為と言えるだろう。

メイドさんがひとりひとり卒業をするのであれば、全員に個別で手紙を書くことができるのだが、自分が卒業するときにひとつ困ってしまうことが、自分対全メイドという圧倒的数的不利の状態であり、しかも当時の私はアンダンテと萌えしゃんどんの二股をしていたので、さすがに全メイドに個別メッセージを書くことができなかったので、各店舗あてに送ることにした。

--------------

転勤による引っ越しの前後は、いつもどったんばったん大騒ぎで、本当に睡眠もままならないほどの忙しさである。

引っ越しをするからといって、もらえるお休みもなく、会社での同僚やアルバイトさんにも全員に手紙を書いたりサプライズをしたりして、かつ、各店舗に挨拶周りに行くのは、あまりにも複数タスクの同時並行すぎる。

それでもなんとか息も絶え絶えに、準備を終わらせて、サプライズ狙撃をしてやろうとお店を訪れると、そこには思いもしなかった逆サプライズが待っていた。

なんと、萌えしゃんどんでは、常連さんからのメッセージが集まった色紙をいただき、アンダンテに至っては、全メイド・執事さん+常連さんのメッセージ色紙をいただいたのだ。

なんとも幸せな話である。普通であれば、100万円以上のポイントを使って、ようやくもらえるような金額のプレゼントを無償でいただいてしまったのだから。

しかも、お店ではそんなに常連さんと絡んだりもしてないはずなのに、わざわざ私を仲間として迎え入れてくれたのだから。誰であれ、お店に通っているお客さんは、みんな仲間。この懐の広さこそが、当時のコンカフェの魅力だったと思う。

萌えしゃんどんでは最終日に、どのメイドさんもローズとの別れを惜しむ歌をうたってくれて、アンダンテでは、本当は火曜日がハンバーグの日だったのを、月曜日にロコモコ丼で出してくれた。

わがままにつぐわがままを聞いてくれただけじゃなく、色紙という宝物を手にしたローズは、ちょっとだけ転勤したことを後悔しつつ、新天地の名古屋へと向かっていった。

NEXT→私の主任時代~名古屋編~