私の主任時代~名古屋編~(10)

さて、前回メンバーの紹介をしたが、あなたなら、600人近くいる生徒を、誰にどのように振り分けるだろうか?

担任の分け方は、さまざまあるが、まず最初にやることとしては、「一番手のかからない生徒」を、「一番能力の低い人間に振る」と、いうのがセオリーである。

今回のケースだと、まずは高校3年生を基本的にヤセガワさんに割り当てていった。受験業界において、もっとも扱いやすいのは、受験生である。1年以内に「受験をする」と、いう明確な目標があるので、先方のニーズを把握しやすく、よほどのことが無い限り他界(転塾)しない。

これは、全体のバランスを見た上でもセオリーの割り振りだし、働く方を守る。と、いう意味でもセオリーの割り振りである。

顧客ファーストになりがちなサービス業だが、当然、従業員にも「やりがい」を感じさせなければならない。意識の低いブラック企業だと、自分が修羅場を潜り抜けてきたから、新卒にも同じように修羅場を潜らせて成長させようとするのだが、当然ながら、そのやり方をする限り、一定の割合で人は辞めてしまう。

誰にだって、どんな仕事にだって、「やりがい」というものはあるはずなので、まずはそれを感じさせて、この仕事を「楽しい」と感じさせなければならない。

教育業界では、根本の想いとして、「人助けをしたい」という気持ちを誰もが持っており、それを自分の手で達成できた。と、実感させることが肝心なのだ。だから、癖が無くておとなしい手がかからない生徒や、愛想がよく所属意識が高くこちらが嬉しくなるほど、喜んでくれる生徒をバンバン振る。いわゆる「癒しのお客さん」というやつだ。

コンカフェ業界も同じように、最初は憧れで入ったはずなのに、実際に顧客についてみると、あまりの気持ち悪さ?と、労力に辞めてしまうケースもあるが、それは、割り振りのちょっとした工夫で替えられるのに、いったいどれだけの人材をロスさせてるのかと見ていて思う。

しかし、この考えは、セオリーとはいえ、割り振るほうとしては、少し気が引ける。なぜなら、本当ならば、もっと相性の合う担任がいるはずなのに、「文句を言わなそうだから」とか、「おとなしいから」とか、そういう理由でより良い担任が割り振られないからだ。

これは、その後の授業の時間帯変更や、何か困った時のお願いごととして、頻繁にお願いされる生徒というのは、実在する。

逆にすぐに他界(転塾)しそうな生徒や、小さなことで文句を言う生徒や保護者というのは、他の生徒より特別扱いされ、手厚い待遇を受けるケースもある。

同じお金を払っているにも関わらず(むしろ厄介の方が少ない場合もある)、行儀よく振る舞っているほうが損をするというのは、おかしなことではないだろうかと思うが、資本主義を突き詰めるとこういった矛盾が生じることはしょっちゅうだ。

アイドル現場のオタクも同じである。ずっとそのアイドルを推し続けて、けなげに、一途に推しているオタクよりも、アイドルは、新規に引きこめそうなオタクや他界しそうなオタクに注力してしまうケースをよく見かける。

正直者が馬鹿を見る。と、いうやつだ。

今ではそういうことは絶対にしない。と、心に誓ったが、あの頃の自分の頭では、「おかしいな」と、思ったことを行動に移せるほどの余裕もチカラもなく、まだまだ会社や社会と言った大きな見えない何かに巻き込まれたまま仕事を進めることしかできなかった。