私の履歴書8(39)

平成5年は、私にとって小学校5年生の年だ。昭和の時代も終わり、平成に入っても急激な成長を遂げていた日本も、いよいよバブルがはじけるときが来た。とはいえ、小学生の私にはさしたる影響はなく、むしろバブル時代に培われた文化的遺産を大いに楽しんでいた。文化は経済の発展からワンテンポ遅れて発達するもので、今は売れないといわれている音楽シーンがまさに今後10年間で栄華を極めていた。ビーズ、ミスチルスピッツから始まり、ジャニーズで言えば、SMAPTOKIO、V6、kinki、さらにはバンド系でGLAYラルクと男性は続き、女性も安室、MAX、華原、globe、TRFzardジュディマリ、speedなど、不景気などまだまだ感じさせない元気な音楽が日本には響いていた。 音楽だけではなく、漫画も隆盛を極めていた。週刊少年ジャンプが、週刊誌としては前例のない、600万部を記録。200円×600万部=12億円の売り上げだ。漫画を印刷することは、お札を印刷するようなものだ。と、言われていたことがよくわかる。確かに当時のジャンプのラインナップを見ると、幽☆遊☆白書SLAM DUNKドラゴンボールの三大看板に加えて、ジョジョろくでなしブルース、タルルートくん、珍遊記、ターちゃん、花の慶次ダイの大冒険までそろってるんだから、反則といっても過言ではない。 現在その価値が見直されているジョジョでさえも、当時は人気ランキングで言えば真ん中以下だったはずだ。 当然ながら私も当時の週間少年ジャンプには熱狂をしていた。あまりにもジャンプが早く読みたすぎて、月曜日は朝の5時に起きてコンビニにジャンプを買いに行った。(本当は違反だが)ジャンプを土曜日に販売しているというお店があれば、どんな遠くまでも自転車で買いに行った。当時の子供たちにとって、ジャンプこそがもはや宗教だった。 「努力・友情・勝利」が、少年ジャンプのスローガンとなっている。これは、同時に会社としての集英社の勝利の方程式でもある。一生懸命努力をして、その途中でチーム内や敵と友情をはぐくみ、そして頑張った分だけ最後に勝利を手にする。 ヒットする作品は、おおよそこの方程式の要素をすべて兼ね備えていた。 増収増益、常に右肩上がりで来た日本経済において、この作風は見事にはまった。トーナメント方式で次から次へと勝ち進み、敵の強さがどんどんインフレしていくことにも、自分が勝つということは、その何倍もの敗者がいることには目をくれず、ただひたすら上を目指していた時代だ。頑張れば、きっといいことが待っていると信じて疑わなかった。 人口ボーナスのある人口増加時代には、それが最も正しい価値観だったのだ。「競争」こそがエネルギー。限られた作品掲載枠の中で「人気至上主義」という名のアンケートによる人気の「見える化」は、ビジネスのメソッドとしては正しい。勝った方には夢のあるリターンがあったし、負けた方だってそれなりにおこぼれがあったから、きっと次こそは勝つぞ。と、さわやかに負けを認めることができた。 最近音楽の売り上げの低迷や、漫画の売り上げが下がっていると嘆かれているが、それは当然だと思う。バブル期の直後の最高に恵まれた「あの時期」が異常だっただけで、今が普通なのだ。 去年、何かと有名になったradが少年ジャンプとコラボしたことが最近ニュースになった。radは、10年前くらいから知っていたが、bumpに続いてradまで消費される時期が来てしまったか・・・。ひそかに思っている。 今の日本は、漫画もアニメも音楽もテレビもアイドルも全部消費しつくしてしまった。経済的には失われた20年でも、まだ心の豊かさはあった。週刊少年ジャンプ的な未来は、もう来ることはないのだろうか・・・。