私の履歴書30(61)

大学生のもっともちやほやされる瞬間であるとともに、今後の4年間を決めることになる重大な時期。そう、それは4月のサークル新歓コンパの時期である。

私に限らず、日本中の地方から集まった、まだ年端もいかぬ田舎者たちが、自分に合う居場所を必死で探すことになるのだが、いうまでもなく、ローズは、たいしたことができなかった。

普通であれば、学科で作った友人と色々な情報交換をしながら、上手にサークルを渡り歩くのだろうが、ローズは、結局たいして回ったりもせずに、もともと興味があった、グリークラブ(合唱部)と、演劇部に入部した。

合唱部については、高校ではやっていなかったものの、歌は好きだったので、特に違和感はないと思うが、演劇部に入部したのは、自分でも謎だった。

そもそも、高校で演劇に携わったこともないし、映画や舞台が好きだったわけでもない。演劇に関するワードといえば、キャラメルボックスも知らなければ、新感線も知らない。三谷幸喜をかろうじて知っているだけで、野田秀樹も、鴻上尚史も、つかこうへいも知らなかったのだ。

私、ジャンプ好きです。ドラゴンボールとワンピースしか読んだことないけど。と、言って漫研に入るようなものだ。

ただ、演劇部の人たちは、私にとっては、愛すべき人たちだった。一言で言えば、「バカ」に尽きる。

よく劇部の人たちで言い合っていたのは、「演劇部」と、いう単位を12単位くらい欲しいよね。と、いうワードだ。

「部活」と「サークル」の違いが一般的には、認識されているが、「部」がついている活動は、割と激しいものが多い。

演劇部は、公演ごとのプロジェクト制のようなものだが、だいたい1公演2か月前からゆるゆるとはじめ、ひと月前になると、ほぼ

毎日練習が入ってくる。平日で18:00~22:00くらいまで。土日だと、9:00~22:00までもざらだ。

確かに、200ページにもわたる台本をもとに、演出を加え、音響を加え、背景を作り、照明を作り、衣装を作るとなると、正直時間はどれだけあっても足りない。

直前の時期になると役者はしゃべりすぎで、声がカスカスになり、裏方は、徹夜が続き、ふらふらしている。

公演代なんて外の会場を借りない限り取らないし、むしろ赤字だし、これだけの時間を費やして何をしているんだろう?と、思うけど、それ以上に出来上がった作品は、最高に面白かった。

脚本はオリジナルの場合もあるし、既存の戯曲の場合もある。いずれにしても、演者がガンガン改定を加え、みんなでひとつの形にまとめていく。終盤になると、自分のセリフどころか、他人のセリフを含めた200ページのセリフをすべて丸暗記できるのだから、人間とはすばらしい。

もちろん一度作り上げたものも、ライブ感が大事なので、その日その日でアドリブを加えていく。

「舞台に立った空気感」と、いうのは不思議なもので、こちらから見ると、いつもと同じ間、同じ感覚で演じているつもりなのに、ウケるところでウケなかったり、ウケないはずのところで笑いが起こったり、正解が見えないナマモノである。そして、即座に返ってくるレスポンス性は、中毒になる。

どれだけ自分の人生を費やしても、いつまでも、なんども、正解を求めるために試行錯誤を繰り返してしまう愛すべき、馬鹿な人たち。今はどうしているのか?役者になってしまった人もいれば、お笑い芸人になってしまった人たちもいる。

私は、2年間で4公演に参加して、演者×2、音響、前説と参加したけど、今思えば、もっと4年間がっつりと参加してもよかったなー。

正直、演じるほうは、セリフ回しは良いとしても、体で演じるのが苦手なので向いてなかったけど、裏方は悪くなかった気がする。演出もやりたかったし、脚本も一度くらいは書いてみたかった。

ただ、理想だけが高く、手は動かない青春時代。あの時の後悔を、今にぶつけ続けられたら、それは、価値のある「失敗」だったのではないだろうか?