私の新人時代~大阪編2nd~(14)

アンダンテの新開店と同時に採用したメイドさんがおよそ1年くらいでほとんどやめてしまった。と、いう情報を見て、雨さんは、世の中では厳しすぎる。と、いう印象を持たれることもしばしばあったようだ。

実際に私が初めて見た雨さんも、たしかに「厳しい」という、イメージを抱いた。

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おそらく初めて雨さんと会ったある日。私がアンダンテにおかえりしようとすると、「申し訳ありません。お店がいっぱいです。」と、あずきちゃんがお出迎えをしてくれたのを今でも覚えている。

「いっぱいだから、なんなの?」と、ローズは心の中で思ったのだが、特にあずきちゃんから選択肢も提示されなかったので、「そっか。じゃあ、また今度おかえりするね」と、言って立ち去ろうとした。

お店を出てからメルカフェのほうにとぼとぼ歩きだそうとすると、後ろから猛烈な勢いでメイドさんに引き留められた。

「申し訳ありません。ただいまお席が空きましたのでどうぞ」

10秒前に席がいっぱいだったのに、席が空いたとはどういうことだよ。と、思いながらも内心ワクワクしながら地下の階段を下りていくと、どうやらテーブルに座っていた常連さんを別の席に移動させて席を作ったようだった。

「まぁ、接客業、特にコンカフェでは、基本中の基本だよな。」と、思っていたのだが、雨さんが少し良くなかったのは、そこであずきちゃんに対して「もっと頭を使いなさいよ!!」と、言ってしまうところだった。

人を使う。と、いう立場では、気持ちは200%共感できる。ここで一人入れるだけで売り上げが1000円程度変わってしまうのだ。これを毎日繰り返せば月で3万円。年間で36万円。

商売に限らず仕事は運・不運に左右されるものだが、安定して結果を出す企業は、こういう小さなところを徹底している。

ただ、このように感じる「消費者」はまれで、おそらく自身がお客さん(消費者)であり、企業でも使われる立場の人たちからは、厳しすぎると感じる人もいたのかもしれない。

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ただ、中の女の子に対しては厳しくても、お客さんに対しての接客は徹底的に良かった。申し訳ないが、今までたくさんのお店に通っていて、「単体トーク」だけを見た時に「商品」として成り立っているのは、雨さんとちはやさんだけだった。

お店を一度訪れさせるのは難しくない。「また来よう」と思わせられる力を持つ女の子は、1店舗に1~2人いるかいないかのレベルであり、そういう女の子がいなくなってしまうと、売り上げがガタっと下がることは、皆気づいていないかもしれないが確かな事実だと個人的には思う。

だから、お店で偉そうにしてもよい。と、いうわけではないが、こなしている仕事のレベルや得ている売上が違うのに、まったく同じ立場だと思っているスタッフを見ると正直私は腹が立つ。

そんな感じで雨さんに興味を持ったローズは、少しずつアンダンテに足を運ぶようになっていた。