私の新人時代~大阪編2nd~(15)

雨さん目当てでアンダンテに通い始めたローズであったが、雨さん本人は、すでにオーナー的な立場で、シフトに入ることはそんなに多くはないような感じになっていた。

なぜか、まつげのエクステ?のお店で働いていたらしい。

---------

当時のアンダンテは、はっきり言って過疎っていた。お昼の時間はそこそこお客さんがいたような気がするが、夜の時間は、ほとんど貸し切りに近いような日にちも何日かあった。

最近は、23:00まで営業するお店はざらで、中には深夜営業で朝5時まで営業をするお店がある中、当時のアンダンテは、21:00閉店をしていたのだから、かなり珍しいと思う。

ただ、女子高生が働く可能性があることを考えると、一般的にメイド喫茶は、21:45を目安に閉店にしないといけないはずだが、守っているお店は少ないだろう。

---------

アンダンテの真っ当な部分といえば、シフトの人数をきちんと確保できている点だった。紅茶やクレープを売りにしているだけあって料理の提供には正直かなり時間がかかるが、どの時間帯でも必ずキッチンさんをひとり専属でつけているので、忙しいときでもメイドさんに負荷がかかり過ぎることはなかっただろう。

また、職業柄、変なお客さんも当然訪れるので、男性が常にキッチンにいるというのは安心感につながったはずである。

また、クレープをはじめ、料理もかなり質が高かったのを覚えている。

ランチタイムは、日替わりで、800円前後でめちゃくちゃ美味しい料理が提供されており、驚愕だった。

自分が提供するものにも自信が持てるし、働く環境としても守られているし、最高の労働環境ではないだろうか?

-----------

私がアンダンテで最も気に入ったエピソードとしては、「お店として」営業をできている。と、いう点だ。

ある日、ランチタイムにおかえりをしたのだが、あいにくその日は混雑をしていて、1時間しか休みが無いローズは、ランチを食べられずにお出かけをしなくてはならなかったのだ。

これについては、私はまったく気にもしていなかった。わずか40分前後しか滞在できないのに、無理やりランチを食べに来たのはこっちなので、むしろ、注文したものを食べずに帰ってしまったのが気がかりなくらいである。

ところが、この日以降お店に訪れると、会う人、会う人から「先日はすみませんでした」と、謝罪をされて、なんて素晴らしいお店だと、正直感動したのを覚えている。

当時のダンテでは、そんなにまだ常連と言えるほど通ってもいないし、通常のイタリアンやフレンチのレストランでも、ここまで店内で情報共有し、しかもそれを「活用」できるお店なんて珍しい。

メイド喫茶云々を抜きにして、当時のアンダンテの接客は、一流の飲食店だったと今でも確信をしている。

「箱推し」のローズは、そんなところがかなりお気に入りだった。

----------------

最近は、「個人」がメインになってしまったので、お客さんのもろもろの出来事を「共有」されなくなったのは、ちょっと寂しいな。と、思う。

情報が共有されるとしても、お客さんの悪口や、キモさなどについてばかりで、いいお客さんの情報は、自分だけが隠し持つ時代だ。そして当然ながら自分の落ち度やミスは隠ぺいし、むしろうやむやにし、ごまかす。なんとも分断化された社会であり、すべてを信じられない社会だな。と、思う。

--------------

しかし、組織としてサービスを向上していくのは、同時に費用や負担がかかることでもある。

当時のアンダンテは、おそらく赤字であったのではないだろうか?ほとんど雨さんの好意による稀有な環境なので、今となっても心から感謝をしたいと思う。

当時のアンダンテに限らず、ほとんどメイド喫茶は、赤字にも関わらず、営業をしているお店が多かったのではないだろうか?

シンプルにいい時代だったな。と、思う。

あの頃のようなメイド喫茶は、社会に余裕が無いと生まれないのだろうか。

私は今でも、ずっとあのころのようなお店を探している。